真っ暗な通路を手探りで降りてゆくと、突然開けた場所に出ました。静かな冷たい光に照らされたそこが、問題の魔法使いの実験室のようです。

　祭壇の先には魔法陣がありました。アルケスタ様から預かった魔法石を設置すると、魔法陣はすぐに機能を回復して安定を取り戻したようです。しかし、一度乱れてしまった生態系を元に戻すことは難しいと予想されます。

　この魔法陣を敷いた魔法使いは、オシリアでは恐れられ、忌み嫌われていたそうです。マガティアの錬金術はそのルーツを辿るとこの魔法使いに当たるとアルケスタ様は言います。秘密通路の存在を認めない協会長達が隠したかったのは、この事実のことだったのでしょう。

　大地震の原因、ドランさんの想い、そして彼が求めていたもの。数年前に失踪したアルカドノ協会の錬金術師が起こした事件のことは概ね理解できたと思います。

　私の手許には1冊の手記が残りました。調査の許可を下さった協会長のマッド氏には報告をする義務がありますが、私がこの手記を持っていてもらいたいのはフィリアさんです。

　そう考えた私はマッド氏に報告するよりも先に、フィリアさんの許を訪れました。手記と一緒にアルケスタ様のお話も伝えると、世間がどう思おうと彼女だけはドランさんのしたことを信じると約束してくれました。事故はお気の毒でしたが、これからは胸を張って生きて欲しいと思います。

　マッド氏への報告を済ませてきました。ドランさんの研究が邪悪なものではなく、家族を想う結果のものと知って安心してもらえたようです。爆発事故の責任はドランさんにありますが、それ以外の汚名に関しては雪いでもらえるよう協会長に期待しましょう。

　結局、錬金術について学ぶことは大して出来ませんでしたが、マガティアに滞在したことはいつまでも記憶に残ることでしょう。報告を終えた私は、マガティアを立つ前にもう一度アルカドノ協会の施設内を見て周ることにしました。

　記憶を頼りに歩いていると、再び案内図に記載のない部屋に辿り着くことが出来ました。そこで見たドランさんの残留思念は以前見たものとは異なっていました。

　私の見た残留思念がドランさんの妄想でなければ、完成したものが存在するはずです。マッド氏に確認してみると、それが事実であれば彼が保管しているはずだと教えてくださいました。

　爆発事故で唯一破壊されなかったそれは、ドランさんが完成させたキニちゃんの為の薬を大切に保管していました。事情を説明すると今すぐキニちゃんに渡してくれとその薬を押し付けられてしまいました。本当だったら自分で渡しに行ってもらいたかったのですが、ここまで関わってしまったのも何かの縁でしょう。

　念の為、マッド氏に分析をしてもらったところ、新薬である事に間違いはないようです。

　心は何処にあるのでしょうか。心臓がある胸でしょうか。脳波を発する頭でしょうか。命は何に宿るのでしょうか。金属の骨格、オイルの血が流れる体には宿らないのでしょうか。錬金術が、科学がこれからも発展していって欲しいと願わずにいられません。

　キニちゃんに頼まれていた研究材料を届けると、とても喜んでもらえました。彼女の研究が完成すれば、家族はきっとまたひとつになることが出来ることでしょう。幸いなことに、彼女達には普通の人間よりも長い時間が許されているのですから。

　例の薬はマッド氏からと偽って渡してしまいました。キニちゃんは立派な研究者です。だからこそ、ただ答えを与えられるよりも、自分自身で彼女の命を救ったのが誰だったかという答えに辿り着いて欲しいと思います。